『エイズの村に生まれてーー命をつなぐ16歳の母・ナターシャ』(後藤健二)

子ども向けの本なので、エッセンスのみ伝えようとしているのだろうけれど、大人の読者としては、もやもや〜とした感じが残る。もっと深く広く知りたいのだけれど、結局、現在の現象しか分からなかったなあ、という感じ。ただ、子どものころに読んだとしても「?」が多く残ったような気がする。
「?」と思ったところを思いつくままに書き出してみると、こんな感じ。

  • 取材の中心地となっているエストニアのナルヴァという町は、9割がロシア系住民であるがゆえにエストニア語が話せず、そのため職がなく、貧しいとのこと。それではなぜナルヴァは、エストニアに含まれたのか。9割がロシア系住民であるならば、この町はエストニアとして独立せず、ロシアに残るほうが良かったのではないか。だれがナルヴァをロシアとの国境線の町としたのか。なにか政治的な思惑があったのか。
  • エストニア独立後、ナルヴァが独立もしくはロシア領になることが検討されたことはないのか。
  • 15歳で妊娠、出産したナターシャは、2007年時点でエストニアでの母子感染第一号とのことだが、なぜ母子感染第一号が10代の女性だったのか。20代30代のHIV保持者が妊娠することはないのか。
  • 未成年者にもかかわらず、ナターシャの両親が登場しない。ナターシャ個人の背景は?
  • 10代の妊娠・出産は、エストニアでは例外的なことなのか。それともよくあることなのか。
  • エストニアでは初婚年齢が早いのか? 15歳の性交渉は、エストニアではめずらしいことではないのか。宗教的な、あるいは倫理的な背景は?
  • 10代の若者の間での麻薬の蔓延が描かれているが、麻薬が蔓延するようになったこととエストニア独立には関連性があるのかどうか。独立前と後との麻薬常習者の数の変化はあるのか?なぜ、失業者など大人だけではなく、10代の若者に蔓延したのか?


あと、本とは関係ないけれど、この本が書かれてから7年後の現在はどうなんだろう、とネットで調べてみたものの、「エストニア ナルヴァ エイズ」の検索語では、出てくるのは本書のレヴューばかりで、結局よく分からなかった。すごいニッチなところを後藤さんは取材したんだねえ。

日本のHIVの状況はどうなのか、調べてみたら、なんと2014年の新規HIV感染者報告は、過去第三位だそうです。数としては「高止まり」とのこと。ただし、エストニアと違って、麻薬の注射針使い回しではなく、性交渉での感染が多い。こりゃ、子どもの教育を考えなきゃなあと思いました。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/aids-m/aids-iasrd/4488-kj4092.html