『正妻 慶喜と貴美子』(上)(下)林真理子

正妻 慶喜と美賀子(上)

正妻 慶喜と美賀子(上)

正妻 慶喜と美賀子(下)

正妻 慶喜と美賀子(下)

上巻で一気に引き込まれたのだが、下巻で失速した感じでした。たぶん、主人公の貴美子が娘を亡くして「死人のようになって生きて行く」と決めてしまってから下巻が始まったからだろうと思う。そのかわり、妾のお芳が視点人物となるのだけれど、女性の人生よりも激動の時代の描写が中心になってしまい、少々説明調で、物語としては面白くない。女性の立場から見た幕末としてはきっとひとつのクライマックスであろうと思われる大奥の崩壊も、貴美子が大奥に入らなかったために、さらりと終わってしまう。大奥から慶喜が選んだという「幸」か「信」の側室を登場させて視点人物に据えていれば、もう少し彩りが出て面白かったのかもしれないなあと思う。貴美子の人生の後半戦としてひとつ興味深いのが、側室腹の子どもを実子として育てることなのだけれど、そのへんも、駆け足だった。新聞小説で、長さが決まっていたのだろうか。上巻が面白かっただけに、ちょっと残念。

ひとつ、小説家ってすごいなあ、と思ったのは、貴美子の京都弁とお芳の江戸弁の見事な書き分けだ。こんなに言葉が違うんだなあととても面白かった。