『日本の歴史を読み直す(全)』網野善彦

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

間接的には、いろーんなところで触れる機会の多い網野史学(それこそ、「もののけ姫」とかね)。
でも、直接読んだのは、正直に告白するとこれが初めてでした。
直接読むと、刺激的というよりは、挑発的だね。
この本が出たころはまだ「仮説」の段階のものも多いけれど、あれから20年経って、すこしは、裏付けがとれたり、反証が出てきたりしているんだろうか。

よく耳にする網野史論は、「百姓」≠「農民」。「もののけ姫」に反映された理論だ。廻船業者とか塩田業や炭焼き、伝統工芸品を作る人達も「百姓」とされていて、彼らは田んぼを持っていないので「水呑百姓」と呼ばれているけれど、じつはとっても裕福だった、という説。しかしそれゆえ、中世〜近世に大規模な飢饉が起きた。貨幣経済が発達して、お米は「作る」のではなく「買う」という層が多くなったから。自分で米を作っていれば、そんなに飢えないはず、だそうです。したがって、哀れな貧農ばかりの中世、近世という歴史観は誤り、というわけ。

もうひとつ興味深かったのは「日本」という国号論。
古代〜中世の日本列島の玄関口は、九州だけでなく、日本海側一帯、さらに青森もそうだった。「天皇」や「日本」という呼び名が生まれたのは持統・天武朝以降で、それ以前は、やがて天皇家になる「大王(おおきみ)」を含むいくつかの部族が林立し、他民族が入れ替わり立ち替わり、広い玄関口から入っては通り過ぎていく、ただの「列島」だったと。したがって、聖徳太子は「日本人」ではないし、「縄文時代の日本人」という言い方も誤りだし、持統・天武朝以降も、中世になるまでは、関東以北(東北)は「日本」ではない、とのこと。