『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っているーー再生・日本製紙石巻工場』(佐々涼子)

通りかかった製作部の同僚に「うちの本も、ここで造ってるの?」と表紙を見せながら言うと「造ってますよー」とのこと。「なんか爽やかなものが読みたいなあと思って」というと、「爽やかかなあ」と苦笑される。……ええ、読んでみると、爽やかではありませんでした。
プロジェクトX」のような感じでもあるけれど、そして、実際「男たちは〜」なノリではあるけれども、やはり、「プロジェクトX」でもない。行間からは、著者がどう盛り立ててもにじんでくる、あの日、石巻の人たちが見たものの恐ろしさ、おぞましさに、戦慄する。
高台に逃れた工場の従業員は証言する。

炎の迫る場所からは、「ここよお、早く来てー、助けてー」と叫ぶ女性の声、「ああ、ああ〜」と唸る男性の声、そして言葉では形容しがたい子どもの声がした。
「夜になると真っ暗で、瓦礫に阻まれて姿が見えないんです。炎が上がると、『いやああああああああ』という断末魔の絶叫が聞こえてくる。とても表現できない声です。それが頂点に達したかと思うと、徐々にフェイドアウトして聞こえなくなるんです。声の中には子どものものもありました。助けようにも、どこから声がするのかわかりません。私はなすすべもなく、ただ手を合わせることしかできなかった」

遠くに見える市営住宅の窓は割れて黒い穴のように見える。
その中からは「助けてえ……助けてえ……」という声が朝日とともに聞こえはじめていた。
秋空に舞うトンボのように、ヘリが上空にバラバラと音を立てて飛んでいる。空に向かって「あそこだー。助けてやってくれー」と叫んで、必死に手を降り続けたが、やはりヘリは降りてきてくれなかった。
……
助けを呼ぶ声は次第に弱々しくなり、震災発生から三日目の朝、その声は鈴木の元には届かなくなった。


「あの日を忘れない」という「あの日」が、東京がすごく揺れた日、というのと「石巻が(大槌が、女川が、陸前高田が……)津波にのまれた日」というのとでは、全然違う。そして、私たち、東京の人間は、じつは「あの日」をよく理解していないのではないかという気がする。東京の人間は、「あの日」を語るべきではない。口を閉じよ、耳を傾けよ、そして胸に刻め、と、自分に、つよく戒めたい。