『寺田寅彦』(ちくま日本文学034)

寺田寅彦 (ちくま日本文学 34)

寺田寅彦 (ちくま日本文学 34)

いよいよ残るところ数冊となった「ちくま日本文学」。この巻はちょっと胸が痛い。というのは、今から20年ほど前、母と妹二人(3女と4女)が読書会をしていたのだが、その課題図書に、nikkouが、読んでもいないのに、本書を勧めたのだ。読み始めるなり、妹二人が、つまらんつまらん、と激しく抵抗していたことを思い出す。
あれから時が流れ、またいで通るわけにもいかず、なんとか読みましたよ。
妹たちよ、申し訳ない。つまらないです。最初の「団栗」みたいな家族を描いたエッセイは胸に沁みるけれど、思いつきみたいな感じで書かれた科学的エッセイは、だいたい、つまらん。
ひとつだけ、面白かったのは「蓑虫と蜘蛛」という作品。
蓑虫に楓の木を食い尽くされてしまいそうなので、除去をしてみたのだけれど、蓑虫の中身はほとんど蜘蛛に食べられて空だった、という話。
「蓑虫が繁殖しようとする処にはおのずからこの蜘蛛が繁殖して、そこに自然の調整が行われているのであった。私が蓑虫を駆除しなければ、今に楓の葉は喰い尽くされるだろうと思ったのは、余りに浅墓な人間の自負心であった。むしろただそのままにもう少し放置して自然の機巧を傍観したほうがよかったように思われて来たのである。」
うちのみかんやレモンの木も、よくアゲハチョウの幼虫に食い尽くされるのだけれど、たいがいさなぎの時点で別の虫に食われるか、鳥に引きちぎられている。そして、みかんもレモンも、何事もなかったように、しばらくするとふさふさと若芽を出す。アゲハチョウの幼虫は、なんのために生まれて来たんだろう。自然界って無情だなあ、とつくづく思う。