『聞く力 心をひらく35のヒント』阿川佐和子

聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

一週間の京都出張の折の、つれづれの慰めに、現地の本屋で買った本。これが案外役立ちました。
出張の目的は営業なので、初対面の人から有益な情報を引き出さなければならない。それが、阿川さんの対談技術と意外にリンクする。
たとえば、質問をたくさん用意して行かない、「あれ」と思ったことを聞け、あいづちにバリエーションをもたせよ、安易に「わかるわかる」というな、しったかぶりをするな、などなど。
ちなみに、質問をたくさん用意して行かない、というのは、以前やはり営業に悩んで読んだおちまさとの対話術と真逆だ。おちまさとは、質問を10個用意して行け、と書いていた。この質問10個法は、入社数年の初心者にはたいへん有意義でした。ただ、さすがに10年やっていると、わざわざ質問をあらかじめ書き出しておかなくても、だいたい何が話題になるかわかってくる。そうなると、そうしたベースの質問はともかくとして、この人には、これは話題にしておこうかね、というものは1つで十分だ。ということで、今年は阿川式に切り替えた。…というほど大げさなものでもないか。まあ、臨機応変に、ということですね。
「あれ」と思ったことを聞け、というのが一番、今回の営業に役立ちました。相手の話のなかから質問の糸口を引き出す、ということであります。「お話うかがってますと、〇〇のような気がいたしますが、どうなんでしょうか」みたいなフリをしてみる。すると、それぞれの現場の特徴なり、その人の考え方なり、こちらの売り込みの有力なきっかけになる情報がぴらりっと出てきて、たいへん助かった。
週刊文春のインタビューは、構成作家、速記者、編集者、カメラマンなど複数の前で行うトークショーのようなものだ、というのも、本書ではじめて知った。なるほど、考えてみたらそうだよね。しかも掲載時には構成作家さんがだいぶきれいに整えているらしい。構成作家って面白いけれど、難しい仕事だ。インタビュー丸々捨てて、資料をもとにまるで別のものを書いたことがある、というライターさんの話を聞いたことがある。阿川さんの場合は、そういうことはないだろうけれど、基本的に話し言葉と書き言葉は違うのだ。書き言葉に翻訳しつつ、空気はのこす。文春を読むかぎり、なかなかの腕前の人だと思う。