『舟を編む』三浦しをん

舟を編む

舟を編む

複数の人に、「編集の仕事ってなにをするの? 『舟を編む』みたいなこと?」と言われたので、どんなもんか、読んでみた。
うーん、まあ。この小説でも、とくに何をしているか、触れているわけではないよなあ。原稿とりはするけど、著者を脅したりはしません。徹夜作業に絆は生まれません。これは、あくまでも小説で、現実はもっと淡々としております。しかも、仕事の内容はもっとバリエーションに富んでおります。だから、現実はなかなか小説にはなりにくく、そんな業界を小説にしてしまったこと自体が、しをんさんの実力なのでしょう。
学園ドラマが現場の教師にはおもはゆく、医師ドラマが現場の医者には噴飯もので、刑事ドラマが現場の刑事には別世界に感じるようなのと、同じようなことだと思う。
この小説は、小説というよりは、まんがっぽい。人物造形にしろ、状況描写にしろ。読み手の脳裏に、まんが的表現が浮かぶということは、書き手もその状況を思い描きながら書いているのかなあ、と思う。まんがも良質なものは文学と同等だと思うのだけれど、まんがが文学から影響される、というよりも、小説がまんがから影響を受けちゃう時代なのねえ、と思った。