『大鏡 全現代語訳』保坂弘司

大鏡 全現代語訳 (講談社学術文庫)

大鏡 全現代語訳 (講談社学術文庫)

読みたい読みたいと思いつつ、とうとうここまでひっぱってきてしまった本のうちの1冊。源氏物語と同時代を舞台にしつつ、だいぶ視点が違うとのことで、最近は高校の古文の教科書にも出てくる。私が高校時代には読まなかったような気がするんだけれどなあ。
さて、本当は原文でよまなきゃいけないんでしょうが、今回はずるをして、全現代語訳で読みました。面白かった。
興味深いのはやはり摂関家藤原氏の強権ぶりで、花山院の出家のシーンでもとくに、花山院のみを出家させて、道兼を道連れに出家されないよう、警護が刀を抜いて見守ったなどというところ、あるいは道長による敦明親王への圧力や伊周への横暴ぶりなど、生臭いことこの上ない。
個人的に面白かったのは、村上帝の女御「安子」について描かれた場面。「村上天皇の女御となった娘安子の異常な一面」という小見出しは、保坂弘司がつけたのだろうが、nikkouには、いっぺんの異常さも感じない、むしろ、この時代にして、ここまで健やかな精神をもった女性がいたとはなあ、と感心してしまったほどだ。天皇相手に一歩も引かない心の強さ。壁一つへだてた隣の部屋で、天皇が別の女といちゃいちゃしていれば、壁の穴から、土器の破片を投げつける、その罰として、天皇が女御の兄に勅勘を下せば、なぜ自分ではなく、兄のほうに罰がくだされるのか、と理知的に攻め、しかも、勅勘を解かぬまで離さぬ、と袖を捕らえ、必ず意志を通す。末端の使用人まで心を配り、情に厚い女性だったという。源氏物語には出てこなかったなあ、こういうキャラクター。強いて言えば弘徽殿女御か。弘徽殿の女御の側から源氏を描けば、弘徽殿の女御っていうのは、すごく魅力的な人だったかもね。