『英語でよむ万葉集』リービ英雄

英語でよむ万葉集 (岩波新書)

英語でよむ万葉集 (岩波新書)

英訳された万葉集を読むと、万葉の歌っていうのは、内容としては、あまりたいしたことを歌っていないのではないか、という気がしてくる。
万葉集に限らず、短歌が詩としてのアイデンティティを保っている理由は、5・7・5・7・7の韻律であったり、呪術的な印象を与える枕詞であったり、音の繰り返しであったりするのではないか。
英語詩ってのは、散文とどう区別をつけているんだろう。

リービ英雄は、万葉集を、英訳しやすい文学だという。視覚的・映像要素がとても強いのだそうだ。個人的には音で味わうことが多く、視覚的・映像的な側面から万葉集を捉えたことがなかった気がする。だから、そういう指摘はとても新鮮に感じた。
ただ、子規らが主張したような写実的意味合いでの視覚的・映像的文学ではなく、そこには「構造的な想像力」が働いているとのこと。天皇の歌や、人麻呂の歌にそれが顕著だそうだ。「天の香具山」を、チョモランマのような天突く大山のように歌いつつ、実際は丘のようなものであった、など。
また、持統天皇「御製」を英訳するときには、三人称を「Her」にしなければならない、という、日本語にはない天皇ジェンダーの問題など、面白かった。