『幸田文』ちくま日本文学

幸田文  (ちくま日本文学 5)

幸田文 (ちくま日本文学 5)

5巻目。幸田文かぁ〜、とちょっとげんなりした。じつは、あーんまり好きではない。「三十四歳、私は新川の酒問屋の御新様から、どしんとずり落ちるやとたんにしがない小売酒屋の、それも会員組織といえば聞こえがいいがいわばもぐりでしている、常軌の店構えさえないうちのおかみさんになっていた。」みたいな文体がいや。なんのこっちゃ。年表まで見てようやく、「戦前に嫁いだ酒問屋が戦後没落して、店舗もなくなった末に、アパートに引っ越して、仕入れた酒を「会員」と呼ばれる得意先に売るもぐりの小売酒屋になってしまった」という意味だと分かった。わっかりにくーい。意味はわかるけど、おおげさだなーという言い回しも多いし。
一番いやーな気持ちになるのが、露伴に対する過剰ともいえる愛情。ほとんど恋人。夫や義母に対して辛辣なのは、露伴との関係のせいじゃないか、とおもえるほどだ。だいたい義母にしても夫にしても物を書く人じゃなかったから、一方的に文に書かれて、気の毒な気がする。
もちろん、文体にせよ、露伴との愛にせよ、幸田文の一番の持ち味なんだろう。それがいい、という人が多いのも知ってます。
でも、nikkouは、そのへんじゃなくて、文の小説特有のえぐい展開とか、エッセイの目の付けどころとか、そういうところのほうが好きだな。
本書に収められているのは、「みそっかす」を中心に、露伴との関係の話が多い。でも、真ん中にちょっと収められている「笛」「鳩」「黒い裾」のような短編小説を読むと、単なる七光じゃなくって、相応の実力のある作家なんだよなーということをつくづく感じる。