「蝶々喃々」小川糸

喋々喃々

喋々喃々

土地柄と作品をからめて描くのはとても難しいと思う。「土地柄」と作品がよくなじんでいて、「土地柄」に負けない物語を紡いでいればいいのだけれど、残念、この作品は、「土地柄」に思いっきり負けている。土地案内があまりに強すぎて、作品はぼろぼろ。ひとつには、場の説明が多すぎるせいだろう。行事やお店が次々と出すぎ。もうすこし絞れなかったのか。「わたし、こんな店も知っているんです」「わたし、この行事にも参加したことがあるんです」的な自己主張が鼻につく。そしてそもそも、物語があざとすぎる。「土地柄」を言い訳にして、「土地柄」を抜いたら陳腐になりそうな物語をなんとか保たせている。あとは、個人的な好みだけど、文体が嫌。失敗した幸田文みたい。「おいしい」を言わずにおいしさを描くのが、腕の見せ所ではないのか。グルメ番組のアイドルじゃあるまいし。この作者のものは初めて読んだけれど、出会いが悪いと、よっぽどの機会でもないかぎり、二冊目に手が伸びないんだよなあ。