「日本神話入門 『古事記』をよむ」阪下圭八

西郷信綱古事記の世界』を読む準備として、本書を読む。
神話の世界というのは、現代小説では絶対に出せない味わいがあって、本当に面白い。
引用される『古事記』の原文を追うと、つくづく、こりゃあ大和言葉だなあ、と思わされる。白川静『中国の古代文学』に引かれていた漢文と、まるで響きがちがう。なんというか、擬音的というか、擬声的というか、感覚的といか、そういう感じ。

それから、古事記に描かれる「日本」の最北端は、筑波山なんだなあ、ということに改めて気づく。東北出身で、頭がい骨やら眉毛の濃さやらが、なんとなく縄文人っぽいわが夫が、「教科書の『日本』に、おれの出身地は入っていない」と言い張るわけが、ようやくわかった。彼は、宮沢賢治には感動を覚えるらしいが、古典の世界の日本には、エキゾチシズムを感じるらしい。

わたしの両親は四国と九州出身なので、『古事記』の日本にはすっぽり入っている。だから確かに、『古事記』に「熊襲」や「隼人」が出てくると、うちのご先祖かな、と思うが、逆に『遠野物語』は私とはなんのかかわりのないもののように感じる。なるほど、遠野物語や花巻で賢治が語り伝える神話世界と、奈良や出雲に伝わる神話世界は、別のものなのかもしれない。

「日本」が共同の幻想であることを、本書の意図とはかかわりなく、感じてしまったのでありました。