「見知らぬ場所」ジュンパ・ラヒリ

見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)

見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)

『停電の夜に』以来大ファンになった、ジュンパ・ラヒリの最新刊。
じつを言うと、『停電の夜に』を読んだ際には、「インド系アメリカ人っていうのがいるのか」という驚きと新鮮さが先立った。もちろんストーリーも構成も文章も、すごくうまいんだけど。
今回の『見知らぬ場所』には、インド系アメリカ人そのものへの驚きは、もうない。そもそも『停電の夜に』はインドから飛び出して来て、アメリカでなんとか基盤を築いていかなければ、という世代中心だったのが、『見知らぬ場所』になると、そんな父ちゃん母ちゃんをもち、アメリカで育ち、ベンガル語より英語のほうが流暢で、マトンのカレーよりドーナツのほうが口になじんだ世代の話中心。そのせいか、かえって身近に感じた。挫折していく弟と、家族の葛藤を抱えた姉さんの物語「よいことばかり」なんて、胸に迫った。
やはり短編の名手だったサマセット・モームが、人間ってのはひとりひとり高い塔に閉じ込められているみたいなもんで、たがいのことなんかわかりゃしない、塔の鉄格子の窓から互いに呼び合っているにすぎない、ってなことを言っていた。ジュンパ・ラヒリの小説も、なんだか、そういうことを言っているような気がする。

停電の夜に (新潮文庫)

停電の夜に (新潮文庫)

読みながらふと、水村美苗の『私小説』や、シンシア・カドハタの『KIRA KIRA』を思い出す。彼らは「日系2世」になるんだろうか。
考えてみれば、ローラ・インガルス・ワイルダーの「農場の少年」でも、父ちゃんが「自分ら農民が、この国を切り拓いてきたんだ」と言っていた。
アメリカっていうのは、多種多様の国から集まってきた人が作り上げた国、と言葉では分かっていても、こう、つぶつぶとみていくと、こりゃすごいことだ、とつくづく思わされる。