「中国の古代文学(二)史記から陶淵明へ」白川静

読み終わるまで一週間かかった。
司馬遷の「史記」から陶淵明までは、教科書でも扱っているので、一巻の金文や銘文に比べれば多少は親しみがある。だから逆に、「わっかんねーや」と読み飛ばせず、漢文も逐一追うことになってしまった。
白川静の中国古代文学史のキーワードは「士人」らしい。「士人」とは、「道(儒教?)」の実践によって自己貫徹する人々のこと。彼らの生き方や思想は、腐敗する政治や荒廃する社会の中で摩擦を生じ、そこから文学が生まれた、ということらしい。
儒教が正しく行われない世に対し、士人は老壮思想、清談へと流れ、それでも世に抗しきれず、弾圧され虐殺され、とうとう陶淵明の悲哀に満ちた田園詩で終える、というのが中国古代文学の大まかな流れだろうか。
個人的に意外だったのは、司馬遷陶淵明の間のキーパーソンが、曹操だということ。曹操というのは、三国志の英雄。nikkouは中学生のとき吉川英治で読んだ。劉備玄徳の敵で、冷酷無比なヒールなんだけど、じつはnikkou諸葛亮公明より好きだった。ワルに惹かれるお年頃? しかし、さすがわたしの見込んだ男だけあって、単なる暴れん坊の悪党、ではなく、文人としても一流、曹操の時代から、説話に付随するものや伝承歌でしかなかった漢詩に、明確なキャラクターをもった作者が現れる。曹操の保護や弾圧の対象になったからか、時代のながれか。
文学が弾圧の対象になる、という中国のお国柄は、現代、ノーベル文学賞作家の高行健や、『ワイルド・スワン』のユン・チアンの本が中国では発禁である、ということと通じているようで、面白い。