『千羽鶴』川端康成

千羽鶴 (新潮文庫)

千羽鶴 (新潮文庫)

これ、一番のキーマンは、ひょっとして、菊治の父親なんじゃないかなあ、と思った。太田夫人のみならず、栗本ちか子も、菊治に父親の面影を見取って、まとわりついているんじゃなかろうか、と。
で、この父親っていうのが、とんでもなく嫌なヤツだ、と思わされたのが、「浪千鳥」で文子が告白した、父親が太田夫人と、文子が一人っ子なのが問題ではないか、とかなんだとか、文子の前で話した、というシーンだ。
こういう、ある意味、太田夫人よりも性的に放埒で無神経な男を父として、様々な物(茶道具やら女やら)を引き継いだ菊治が、この父の遺産を捨てて、自分の人生を始められるのか否かというのが、テーマなのかもしらんなあ、と思って読み進めて、突然終わってしまう。
小谷野さんの『川端康成』では、取材ノートが盗まれて、書けなくなったからだと言われているが、実は例によって収拾がつかなくなっちゃっただけでは、と書いていた。まあ、そういう面もあるかもしれないけれど、菊治についてはもう、ほとんど結末が見えていたような気もしなくもない。たぶん、一度は捨てようとして、捨てられずに、父親の遺産に押しつぶされてしまう、みたいな話になるのかなあ。ただ、それだけじゃあらすじだけになっちゃうから、取材ノートに書き留めた風物をくだくだ書いて嵩を増すつもりだったのが、ノートがなくなっちゃって、できなくなった、ということなんじゃないかなあ、というのがnikkouの推理。