日本恋愛思想史(小谷野敦)

佐伯順子『恋愛の起源』の対抗本として、小谷野敦『日本恋愛思想史』も読んでみる。文学に残っている日本の「恋愛」ってのは、古代は貴族だけ、中世以降は武家、近世は豪農・豪商くらいで、それ以外の庶民が「どういう『恋愛』をしていたのか、ということを正確に知ることは出来ない。」とずばり言っていて、なんか、すっきりする。もう、そういうのは、文学というより文化人類学とか、民俗学とか、そういう方向なんだろうねえ。それはそれで面白そうだけれど、なかなか研究が難しそう。
小谷野さんに言わせると、佐伯順子氏の恋愛文化論も、だから、「誤った比較文化論」なんだそうだ。特定の階層のみ、比較しているから(具体的には、近世の遊郭での「色」と、明治以降の元武家階級の「恋愛」の比較)。でも、特定の階層の価値観の変化っていうのも、一般化さえしなければ、それはそれで、研究対象としては面白いと、自分は思う。
小谷野さんはずーっと言っていることだけれど、一貫した「日本文化」ってのがあるっていうのは幻想なのね。時代によって、社会階層によって、また地域によって、価値観は多種多様で、日本文化が一貫していたことなんて、ないんだそうで。
「日本文化論」っていうのには、よくよく注意したほうがいいね。(といいつつ、「日本文化の雑種性」(加藤周一)なんてのは、長らく教科書に載っていましたが;)