「私の文学漂流」吉村昭

私の文学漂流 (ちくま文庫)

私の文学漂流 (ちくま文庫)

城山三郎「そうか、もう君はいないのか」を読んで、同じ世代の人だったなあ、と本書を手に取る。吉村さんの奥さんは、作家の津村節子さん。
城山三郎とはまた違う家庭生活だけれど、奥さんに対する信頼の篤さは負けず劣らず。
夫婦で作家だなんて、離婚するに決まっていると周囲にささやかれるのをモノともせず、一男一女を育て、ふたりとも日本を代表する作家として名をなした。

津村さんが子供を背負って茶ダンスに原稿用紙を乗せて立ったまま書いているのをかいまみてしまった、というシーン、吉村さんの、糊口をしのぐための会社勤めが忙しくなってしまったのを見て、津村さんが「会社をやめて、書いてください」と言った、というシーンに、この夫婦でしか作れない世界を見たなあと、ぐっとした。どのおうちにもきっと、それぞれの世界があるんだろうけれど。だから、夫婦って意義があるんだなあ、と思う。