「マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝」バラク・オバマ

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

原著の書名は「Dreams From My Father」つまり、「父の夢」であって、「マイ・ドリーム」ではない。これは案外大きい差だ。
オバマ氏の父親は、ケニヤからの留学生であった。物心がついた頃にはすでに父はケニヤに帰っていて、オバマ氏10歳のころ、父がアメリカに来た時に一度交流を持った程度である。だから、オバマ氏にとって父は、理想化され、偉大な男、黒人リーダーとして、彼の心に住み続けた。
ある日、ケニアで父と最期まで暮らした異母姉のオウマが来米、実際の父がどんなに浮き沈みの激しい人生を送ったか、を語る。理想ががらがらと崩れ、現実を直視せざるを得なくなったオバマ氏。
それをきっかけに、オバマ氏は父探しを始める。そう、これは「マイ・ドリーム」ではなく、父から託された夢を探し行く物語なのである。彼は、ケニアを訪れ、アメリカとはまったく違う価値観で生きる人々に出会う。「黒人である」ということに特別な意味を付与されることはないけれど、地縁血縁をあまりにも重視しすぎる濃厚な人間関係や、グローバル経済・植民地主義・民族間の争いに飲み込まれていくアフリカの問題。
そうか、彼は白人と黒人の対立を一身に体現しているのみならず、この地球のいわゆる「南北問題」も背負っちゃっているんだなあ、たいへんな人がアメリカ大統領になったものだ、と思う。
Yes We can」という彼のキャッチフレーズは、いーろいろとしんどい問題が山積みなのはわかるけれど、それでもできるはずだ、希望を捨てないで行こう、ってことなんだろう。