「正義のミカタ I'm a loser」本多孝好
- 作者: 本多孝好
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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本多孝好。現代日本作家で好きな人、というと3本の指に入る。本書が昨年にはもう出ていたのに、しばらく放っておいたことを、今、しみじみと悔いている。
半分くらい読み進んだところで、まさか本多孝好がこんな勧善懲悪で終わるまい、と思う。さらに4分の3まで読んで、まあ面白いけどこれで終わるまい、と思う。そして、ラスト15ページで、ああ、そう来たか、いや、そうでなければ、そうだそうだ、と胸がいっぱいになる。
「神の国と神の義をまず求めなさい すべてのものは与えられる ハレル ハレルヤ」という讃美歌があって、わたしの所属するシンガーズ、クワイアーではレパートリーとしてよく歌う。歌いながら、じつは、少し居心地の悪い思いをしていた。
「神の国」は、半年前に分かった。今この世界にあって、居場所のない人たちが、「ああここなら生きられる」「ここなら深々と息ができる」そう思える場所だ。
でも「神の義」が分からない。「神の義」というと、右手にバイブル、左手にクラスター爆弾を持ったブッシュ大統領が脳裏に浮かぶ。それが「神の義」か? まさか。
「最も弱くされたもの、最も低くされたものと共にある、それが『神の義』だ」という人がいる。すると、「キリスト教とは弱い者たちの恨みつらみの宗教である。」「最も低くされたものが最も尊いという教義に騙されて、虐げられたものは、いつまでも搾取されつづける。」という、たぶん何重にも翻訳されたニーチェやマルクスの格言が脳裏に浮かぶ。
そして、自分の「神の義」という歌声だけが、いつもうつろになる。なんなんだ、「神の義」。
本多孝好は書く。「正義のミカタ」にぼこぼこにされながら、「渾身の力を振り絞って」武器から「手を引き剥がす」姿を。
そして、その希望を。
ただ、静かに待ち続ける希望を。
宗教小説ではありません。聖書のせの字も出てきません。むしろポップな青春小説を装っています。でも、じつは、三浦綾子よりも遠藤周作よりも、nikkouは本多孝好が好きです。