『セクシィ古文』田中貴子・田中圭一

セクシィ古文 (メディアファクトリー新書)

セクシィ古文 (メディアファクトリー新書)

古事記』も『源氏物語』も『梁塵秘抄』もいっしょくたに、セックスの話ばかりずらっと取り揃えたというなかなか乱暴な一冊。田中圭一のまんががエロいです。
田中貴子氏が

この本は「性」(ひらたくいえばエロ)を題材とした古文を通じ、一人でも多くの人に古文を好きになってもらいたいという願いを込めて企画されたものである。

と書いているけれど、はたして、この本を読んで「古文を好き」になる人がいるんだろうか。この本を読んで『源氏物語』を通読しよう! とか、『今昔物語集』を読んでみよう!とか、あるいは学校の古文の授業がおもしろくなった!なんて考える人がいるんだろうか。エロを目的にそのあたりの古文を読むんだったら、だいぶあてがはずれるよなあ。古典的なエロを楽しみたいなら、近世の枕絵でも眺めた方がいいんじゃないかなあ。nikkouも、若いころの読書を通じて、古文の面白さに目ざめたので、「古文を好きになってもらいたい」という気持ちはよくわかる。今昔物語集であれば、永井路子の「新今昔物語集」とか、それこそ芥川の翻案小説とか、現代を舞台に描かれた小説では味わえない感動を満喫したもので、あの感動を、今の若い読者とわかちあいたい、と、nikkouだって思う。でも、この本じゃ、無理だと思う。
ただ、すごく売れているらしいです。つまり、この本一冊が売れることだけ、「企画」されていて、その先のことは、たぶん、まったく期待されていないんだと思う。「売れる本」を作る、という要望と、自分の仕事の目的を高く掲げる、ということの間を上手に泳いでいきたいなあ、と、しみじみ感じた一冊。