『怖い絵で人間を読む』中野京子

「怖い絵」で人間を読む (生活人新書)

「怖い絵」で人間を読む (生活人新書)

夏休みに、仙台に里帰りした帰り道に購入した本。カラーが美しく、複雑な欧州史も分かりやすく解読されていて、リーダブルかつ面白かった。人間の怒り、悲しみ、苦しみや、誇り、救いなどは、国や時代を問わないんだなあ、とつくづく思う。
NHK教育テレビの番組を本に起こしたもの、とのことで、最終回は「イーゼンハイムの祭壇画」。番組では、「イーゼンハイム」の磔刑像を見に行く巡礼行をドラマ仕立てにしたもので、一見ヨーロッパで撮影したように見えるものの、じつは徳島で撮影、とのこと。見てみたい。DVDとか、出てるかな。本では小説仕立てになっている。

長い辛い旅路の果てに、あなたは今この絵を前にしている。
十字架上のイエスのねじれ、よじれ、伸びきった身体、肉体と精神の苦痛に激しく歪む顔、干からびた昆虫のような指、醜い皮膚の斑点、棘の刺さった痛々し傷跡、流れる血。
何と恐ろしい! 何と凄惨な! 何と痛い! 痛すぎる!
これでは仲間の死に際と同じではないか。いや、自分の今の姿そのものではないか! イエス様は自分と同じように、苦しんで苦しんで、みんなのために死んでくださったのだ。

この世界でももっとも小さく、もっとも苦しみ、もっとも貧しいものと歩むために、イエスは生まれ、生き、死んだ。
その記憶が、人間の中に芸術を生み、人間を癒し、救う。